亜鉛の効能
亜鉛は体内で作ることができない「必須微量元素(ミネラル)」で、骨・骨髄、前立腺、肝臓、腎臓、筋肉、皮膚等に多く含まれ、体内に約2~4g存在する鉄の次に多い微量ミネラルです。生体内の300種以上の酵素の構成や酵素反応の活性化、ホルモンの合成や分泌の調整、DNA合成、タンパク質合成、免疫反応の調節などに作用し、身体の成長(細胞の正常な分化)、生命の維持に深く関わる栄養素です。
亜鉛が欠乏すると
亜鉛が不足すると、以下のような疾患(病気)や症状の原因となります。
○風邪等の感染症
免疫力が低下し、風邪や肺炎などの感染症を起こしやすくなります。
○低身長や発育不良、性腺発育不全
成長ホルモンや性ホルモンの産生が低下し、身体の発育が障害されます。
また精子の形成が障害され、男性不妊の原因となります。
○皮膚病
びらん、水疱、乾燥、脱毛などの皮膚症状の原因となります。
○味覚異常
正常な味が感じられず、食事が美味しくなくなります。
○創傷治癒遷延
傷が治るのが遅くなります。
○精神症状
意欲減退、記憶障害、情緒不安定、うつ症状などの原因となります。
○食欲不振や消化器症状
食欲減退や下痢や消化不良などの胃腸障害を引き起こします。
○貧血
鉄と同様に赤血球をつくるのに必要なため、貧血の原因となります。
亜鉛が免疫系に与える影響
免疫には大きく分けて自然免疫と獲得免疫があります。自然免疫は人間に先天的に備わっている免疫機能で、好中球、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)等の免疫細胞が、細菌やウイルスをはじめ、外部からの病原体や異物を捕食・攻撃して排除します。これに対し獲得免疫は、一度侵入した病原体の情報を記憶し、学習することにより備わるという特徴があります。一度かかった病気にかかりにくいのは、この獲得免疫が抗体を作ることで、再度体内に侵入したウイルスなどの病原体(抗原)を不活性化し、排除するからです。
○B細胞の情報伝達や抗体産生を調節
獲得免疫細胞の一つであるB細胞には、異物に対応した後に、その異物を記憶して次の感染に備えるものがあります。亜鉛は獲得免疫を構成するB細胞が異物を認識するための情報伝達や、抗体の産生を調節しています。そのため亜鉛欠乏により、Bリンパ球数と抗体の産生が減少し、免疫力が低下します。
○インターフェロンαを合成し、NK細胞を活性化
さらに亜鉛はインターフェロンαの合成に欠かせません。インターフェロンαは、自然免疫を構成するNK(ナチュラルキラー)細胞を増やし、活性化させる働きを持ちます。またインターフェロンαは体内に異物が侵入したときに分泌され、抗ウイルス作用や抗腫瘍作用があることでも知られています。
○T細胞の抗原受容体を活性化
T細胞の補助受容体とチロシンキナーゼの会合に亜鉛が必須とされている。
○免疫反応による炎症を抑制
抗炎症生タンパク質を増やして、炎症を抑制する効果があるとされており、亜鉛投与により潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患が改善したとする複数の研究がある。
○新型コロナウイルスを含むRNAウイルスの複製を阻害
またRNAウイルスに対して、亜鉛は、RNAウイルスを複製する酵素であるRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を阻害することで、ウイルスの複製を防ぐ働きがあります。この作用は、RNAウイルスに分類されるSARSコロナウイルス(SARS-CoV-1)を用いた研究でも確認されています。
このように、亜鉛は免疫機能の維持や活性化に欠かせないミネラルであり、亜鉛が欠乏すると、免疫力低下につながり、感冒(風邪)の原因ウイルス、HCV(C型肝炎ウイルス)、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、HSV(単純ヘルペスウイルス)などの様々なウイルスへの感染リスクが高まることが示されています。
亜鉛と新型コロナウイルスの関係
○亜鉛欠乏は、COVID-19(新型コロナ)ウイルスの重症化因子
肥満や糖尿病、高齢者などは、新型コロナ感染で重症化しやすく、ハイリスク群とされますが、過去の複数の研究において、これらハイリスク群では亜鉛が低値でした。
また、新型コロナ重症例では亜鉛が低値で、亜鉛欠乏例では予後不良となりやすいことがいくつかの研究で報告されています。新型コロナの成人患者108人を調べたフランスの研究では、亜鉛の数値が低下するほど、COVID-19の重症度が上がるという相関関係が認められました。
インドの研究でも、亜鉛欠乏患者では、COVID-19の予後が不良になることが示唆される結果が報告されています。新型コロナ患者のうち57.4%(27人)が亜鉛不足であり、このグループでは、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)など合併症のリスクが高く、入院の長期化や死亡率の増加が認められました。
さらに日本でも、堺市立総合医療センターに入院した新型コロナ患者62人を対象に、亜鉛とCOVID-19重症例との関係が調査され、亜鉛の血中濃度は、軽症・中等症では平均87.7μg/dL、重症では平均62.4μg/dLであり、重症群では亜鉛が低値でした。 以上のように様々な研究で、血中亜鉛濃度の低下がCOVID-19重症化のリスク因子であることが示唆されています。
亜鉛と新型コロナウイルス治療
米国では、2020年初期の段階で、COVID-19治療アルゴリズムに亜鉛投与が含まれており、治療の一環として実施されています。
○死亡率が24%減少
亜鉛単独ではありませんが、亜鉛+イオノフォアの併用投与により、米国のCOVID-19患者の院内死亡率が24%低下したとの報告があります。ニューヨーク市の4つの病院に入院したCOVID-19患者3473人が対象となり、そのうち1006人(29%)が亜鉛+イオノフォアを投与されました。亜鉛+イオノフォア投与群は、非投与群に比べ、院内死亡率が24%低下しました。
亜鉛の摂取方法と用量
亜鉛は人体に不可欠な16種類の必須ミネラルの一つですが、体内で生成することができません。以下、亜鉛の含有量が多い食材を紹介します。
○亜鉛が豊富な食材
「魚介類」
牡蠣の亜鉛含有量は可食部100gあたり14.5mgで、非常に多くの亜鉛を含む食材です。
「肉類」
牛赤身肉や、豚レバーに亜鉛が多く含まれています。
「ナッツ類」
カシューナッツ、アーモンド、かぼちゃやひまわりの種、松の実などは、亜鉛を多く含んでいます。
その他、大豆製品、卵、小麦胚芽などにも含まれています。
食事摂取で摂取困難な場合は、亜鉛サプリメントの利用も可能です。
○亜鉛摂取の推奨量
“日本人の食事摂取基準2020年版”では、亜鉛の一日の摂取推奨量は成人男性(18~74歳)で11mg、成人女性(同様)で8mgです。耐容上限量は、男性では40mg~45mg、女性では30mg~35mgとされています。ただし、それ以上に亜鉛を過量摂取すると、銅の吸収率が低下し、貧血を起こしたり、逆に免疫システムが損なわれたりする恐れがありますので、注意が必要です。
総括(まとめ)
亜鉛摂取は、免疫系の維持・調節に不可欠なミネラルで、風邪や肺炎の感染予防や症状改善効果が示されています。
亜鉛を投与した複数の研究に関する系統的レビュー/メタ解析によると、
・成人における風邪の罹病期間が33%短縮、
・小児5,193 人では肺炎の罹患率が13%低下、
・成人2,216 人での重度の肺炎の死亡率が低下
など、細菌・ウイルスに対する感染予防や重症化防止に対する効果が示されております。
また前述のように、新型コロナ(COVID-19)感染の重症化抑制効果を示唆する論文も複数発表されております。
日本をはじめとする先進国でも、亜鉛は摂取不足の傾向にあり、免疫を維持し感染予防に有効なエビデンスが複数存在することから、摂取が推奨されるミネラルと言えるでしょう。